有限会社Ayleeds社長日記。継接ぎだらけですが、世界一周旅行もやってます。

プチ社長日記:『ポッキーおじさんの思い出』の話

ポッキーおじさんの訃報に接したのは、1週間ほど前のことである。

家の郵便物を確認していると、ポッキーおじさんの奥さんより『今年はダンナの喪中だから年賀状いらないよハガキ』が来ていて大いに驚いた。
しかも、この世を去ったのは春だという。
確か最後にお会いしたのは今年の2月頃ではなかったか。

早速、奥さんに電話してみたのだが番号が変わっている。
見事な引き際だ。

ポッキーおじさんというのは、某県でホテル支配人などをしていたN氏のことで、父の盟友である。
どーいうわけか私を可愛がってくれた『イイおじさん』である。

N氏は近隣のエリアにおいて絶大な力を持った人物でもあった。
そもそも私が彼をポッキーおじさんと呼ぶのは、最初に会った時にポッキーをくれたという、爽快なまでにそのまんまなエピソードによる。

記憶が断片的なのだが、何故か私は彼と二人きりであった。
彼は近くの売店から私にポッキーをひょいと投げ、『食べなさい』と言った。
そしてそこを立ち去ろうとしたのだ。
私は、憔悴した。
彼がお金を払っていないからである。

断っておくが、ポッキーというのは当時、高級なお菓子に分類される。
ポッキーを氷で冷やすと美味しいと、『ポッキー・オン・ザ・ロック』という恥ずかしい歌付きでCMが放送されていた時代である。私も家でポッキーを食べる機会に恵まれた時は、アイスに突き刺して喜んでいた。
今ではキャバクラなんぞで出てくるが、そーいう改まった食べ方をメーカーが奨励していたのだ。
因みに赤い箱のポッキーしかない。
メンズポッキーとか冬のくちどけポッキーは勿論、いちごポッキーですら無かった時代だったと思う。(つーか最近、ストレートのいちごポッキー見ないよね。)

話を戻す。
其の時、私は当然、お小遣いを持っていない。
小学校6年生の時点ですら月の小遣い1200円だった私が、低学年の頃の所持金額など推して知るべしである。

ポッキーは食べたいが、お金を払ってないし、払えない。
ペリッと帯の部分を剥がせば犯罪者確定の状況である。
私は不安そうな目で彼を追った、、、のだと思う。

彼は私がついて来ないのに気付き、『そうかそうか』と言って戻ってきては、ひょいともう一箱つまみあげ、私に放り投げた。
『他に欲しいもんあったら好きなだけとっていいから。』

どうやら兄の分のポッキーを心配していると思ったらしい。
・・・違うだろ。カネを払えカネを。これでは泥棒ではないか。
しかし、お店の人はこちらに『愛想笑い』と太字にしたくなるような、子供にでもわかる笑いを浮かべていた。あまりにも寒気がする笑いだったので今でもはっきり覚えている。

私は恐る恐るそこから立ち去った。(ポッキーは親に断ってから食べた)

其の時が最初だった。
ポッキーおじさんが、その土地の王だというのを知ったのは。

『土地は値上がりする』 そう、無邪気に信じられていた時代に、土地を持つことは王であることを意味していた。

その後、バブル経済に突入し、『東京の土地でアメリカ全土買えます』みたいなふざけた時代に彼の統治は黄金時代を築き、その終焉と共に凋落していった。

激動の人生。

今やその観光地は悲惨な状況であるという。
近隣の温泉街などゴーストタウンのように鄙びているらしい。
『鄙びた温泉街』というと不倫旅行に相応しいような淫靡且つ情緒深い響きを持つが、マジでシャッター閉まりまくりの温泉街を見ると、訪れた観光客はドン引きするものである。

最後にお会いした時は、勿論彼の引退後であって、上記のような悲惨な地方経済の状況を滔々と語っていただいたのを覚えている。

ポッキーおじさんの訃報に接して、父もいろいろと連絡してなんとか奥さんとはお話しようと試みた。
しかし、彼が死んだことすら知らない方が殆どだった。

私は、あまりにも鮮やかな引き際から何か理由がある可能性があると、これ以上の詮索をやめるように具申したが、ほどなくして父は奥さんと連絡をとることに成功した。

N氏の死去から既に月日が経っていたので、沈痛な話ではなく、寧ろ昔話に興じることも出来たようである。
父もN氏との思い出を辿ることである種の満足を得たようである。

ただ、彼の死因が、膵臓がんであった。
発見から僅か1週間後でこの世を去ったという。

父は現在、膵臓がんの亜種ともいうべき膵臓乳頭部のガンであるが、
結局は膵臓がんである。
7月に発覚してから4ヶ月以上経っているのは、抗癌剤の効果が認められているからであるが、それでも統計上は『運のいい』部類に入っている。
父は、意識ははっきりしているが、最近は恒常的に発熱して殆ど寝たきりに近い状況である。

電話の後、父は暫く押し黙っていた。

父が友人の死とその原因を聞いてどのように感じたか、私には知る由も無い。

私はただ、N氏のご冥福を祈るばかりである。


♪ま、そんな感じでひとつよろしく。(ランキング)♪
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