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プチ社長日記:『君は沿ドニエストル共和国を知っているか』の話

いや、俺もよく知らないんだけどね。
だから、とりあえず行ってみようと思って。

沿ドニエストル共和国。
2016年7月現在、貴方の世界地図にその国の名前はない筈だ。
因みにGoogle Mapにも華麗にスルーされている。
まともな国で此処を承認しているところはない。

ところが、軍隊、警察、通貨、陸運局(車のナンバー見て知った)等々、
国家としての機能を一揃え有している。それも、なかなかのレベルでだ。
1992年のトランスリニア戦争では、独立直後のモルドバ軍と戦って停戦に持ち込んでいる。
現在の「国境」(日本政府の立場では国ではないので「」表記。以下、同じ。)が、
ドニエストル川よりもキシナウ側にせり出している所を見ると、ロシアの支援を得ていたとはいえ、
かなりの善戦だった模様で、歴史博物館の誇らしげな展示物からも窺うことができる。

モルドバの首都キシナウでのホテルの店員(めちゃくちゃ親切だった)から得た最新情報、先人達のブログ、そして幼稚園児並みの
ロシア語という僅かな手持ち武器をひっさげ、いざキシナウのバスターミナルへ。
バスターミナルは駅から結構歩くところにあるが、鉄道駅よりも断然、こちら界隈の方が賑わっている。

沿ドニエストルの「首都」、ティラスポリ行きのバスは頻発している。
よしよし。慌てるこたぁない、ホットドッグや飲料を購入して悠然と乗り場へ行き、
バスを発見する。バスと言ってもワゴンなのだが。
スタッフにチケット売り場を教えてもらい(ターミナルビルの中ではなく、駐車場の隅にある。)、
チケット購入。36.5レイ。

この辺の鉄道の客車、乗り合いバス(ワゴン)に共通しているのは、冷房が無いことである。
そのくせ、極寒の冬に備えて窓は大抵、はめ込み式であかないということだ。
寒暖の差が激しく、夕方になると虫が一斉に鳴きだし、晩秋の趣さえ漂う当地方であるが、さすがに日中は暑い。

最初は3人しか乗客のいなかったワゴンであるが、最後にはほぼ全員着席に。
一人東洋人の私の隣だけが最後まで空席であった。
(そう言うの、うっすら傷つくからまじでやめてほしい。。。)

とは言え、彼らの警戒心もむべなるかな。
過半が沿ドニエストルの住人なのだ。私はどう見ても、全力でよそ者です。なんか、すみません。

未承認国家、というのは我々の興味(妄想)を掻き立てる土地だ。
まぁ、昨年訪問したパレスチナも同じ位置づけなのだが。

疑問はいろいろあり、キチンと時間をとって調べたいところではあるが、
旅行者から見れば犯罪者引渡協定辺りが気になる。国が未承認なので、調印は無いと思われるのが、
本当にないなら無法地帯になってしまうので、その辺はよくわからない。

パレスチナのように壁(イスラエルは柵と主張しているが)で囲まれている訳ではないので、
ティラスポリで犯罪を犯してもバスで「国境」通過するまでの100分間、もしくは自力で川を渡れば数分で「出国」である。
私が彼の地で身寄りの無い誰かを殺害し、後の調査で犯人が私と特定されても、沿ドニエストルの警察を
警察と認める国はなく、結果、完全犯罪とは言わないものの、うっかり再訪でもしない限り
拘束から逃れられるのではあるまいか、、などの妄想をぼんやり考えて過ごす。

・・・待てよ。
逆も真なり。
私が誰かに彼の地で殺害されたとして、沿ドニエストル警察は何をしてくれるだろうか?
モルドバ警察が調べに来てくれる?
・・・否、立入ることすらできないのではないだろうか。
沿ドニエストル警察の調査結果をもとに、モルドバ警察が各国に照会を依頼する?
せいぜいその位だ。よっぽどの案件でない限り、泣き寝入りしかなさそうだ。
と言うことは、どちらというと危険なのは私の方では??

実態はともかく、未承認国家でトラブルに遭うと、基本は自力解決、ということを肝に銘じておいた方がいいだろう。
まぁ、単独旅行者はなべて自力解決の世界なのだけれど。
警察こそが旅人にとってもっとも厄介で危険なケースは、ままあるのが実情だ。

さて、そんな妄想をよそに、目に映るのはトランス地方の美しい風景である。
女性的な稜線の台地に、ひまわりやトウモロコシ畑が広がる。
ひまわり畑には思わずレンズを向ける。
ただ、ひまわり畑を有難がるのは日本人位らしく、タクシーで「ひまわり畑に行ってくれ」というと
「何故、そんなところへ行くのか?」と運転手から質問攻めにあったという話を聞いたことがある。

話を戻すと、ルーマニア、モルドバは農村風景が有名である。なるほど見ごたえがある。

ただ、その長閑さは、国境が近づくと変わってくる。

まず、モルドバ側の検問所を通過する。モルドバ兵士が駐留しているが、モルドバは沿ドニエストルを建前上、相手にしていないので
スルーできる。バスも減速しないので、気を付けていないと見過ごしてしまう。

一方、沿ドニエストル側では、しっかり入国審査を受けることになる。
結論から言えば、ロシア語は不要だ。少なくとも日帰りでは。
パスポートにスタンプは押されず、イスラエル等でも見られるような入国カード制なので、
後でパスポート上のミスマッチを指摘されることはない(「入国」履歴は残らない)。
国境自体は歩いて越え、先回りして待機している同じバスに乗るという、ありふれたパターンで難なく突破である。
ちょっと拍子抜けである。

バスはそのまま市街地に入り、鉄道の駅前ロータリーが終点だ。
駅には両替所があり、特に悪くないレートで交換している。
ただ、駅前の売店は何故かモルドバ・レイで買い物できるので、レストランなどで食事をしないなら、
ここで飲料を買うだけで十分かもしれない。

沿ドニエストルの紙幣は、ここでしか使用できない。
まぁ、地域振興券みないなものなので、必要最小限の両替が鉄則だ。
10ドル両替したが、物価が安いのでビール1杯飲んで食事してコーヒー飲んでもお釣りがくる。
キシナウでも、キシナウビールは100円ちょい相当で飲めるので、物価だけ見るとこの辺は天国である。

事前にgoogle mapをダウンロードしただけなので、特に観光名所などがわかる訳ではない。
が、通りの広さや街のつくりから、大体この辺かな、という方向へ歩く。
まぁ、分からなくても根性出せばティラスポリはほぼ歩ききれそうな街であるが。

途中の喫茶店でコーヒーを啜り、街を歩くと、旅行代理店をよく見かける。
・・・ふと思ったのだが、未承認国家の国民はどうやって海外旅行をするのだろうか?
こればかりは、仮に沿ドニエストルがパスポートを発行していても、受け入れる国はない(厳密には)。
ロシアがパスポートを発行するとも思えないので、おそらく、モルドバとして発行しているのだろう。
だとすれば、沿ドニエストル国民には、忸怩たる思いに違いない。

途中で立ち寄ったレストランでピザとビールを腹に詰める。
レストランで流れる曲がcoldplayである。至って普通の田舎のレストランだ。

その後ものんびりと歩き続け、やはりというか、
ドニエストル川近くに、この国の中心である国会議事堂は建っていた。

沿ドニエストルは、「現代に生きるソ連」として紹介されている。
確かに見た目だけで言うと、議事堂前にはレーニン像が堂々とそびえており、
国章や国旗は「槌と鎌」のお馴染みソ連マークである。
因みに、ここまで立派(?)なレーニン像は今や珍しい。
(この数日後、ベラルーシのミンスクで更に立派なレーニン像を見ることになるのだが)

道の名前は「レーニン通り」「10月25日通り」(※十月革命の記念日)など、
まんまソ連である。
では、社会主義ゴリゴリかと思いきや、どうもそうではないらしい。
未承認国家の地位を利用してロシアからタダ同然で天然ガスを輸入し、それを
売却しているという。この利権を握っているのが一部の財閥層というから、
レーニンが知ったら激怒間違いなしの腐敗っぷりである。
ただ、さすがにロシアもタダ同然で天然ガスを売るのは
やめようということで、今は供給を絞っているという。
たちどころに沿ドニエストルの財政はひっ迫し、今は公務員に給料の遅配が出ているというから
もはや待ったなしである。

公務員の給料遅配は、治安悪化に直結するが、今のところ街は比較的おだやかで、
一人で歩いていても危険をまったく感じない。
ドニエストル川では、のんびりと水泳を楽しむ家族連れも見られる。

極めて長閑な「国」である。
ロシアが水を向ければ、真っ先にモルドバからロシアに併合を希望しそうな「国」であるが、
今のところそのような気配はない。
一種の火薬庫的な位置づけであるが、今は静かだ。


レーニン像を背にして通りを渡り、沿ドニエストルの「独立」記念歴史博物館といった趣の建物に入る。
戦没者の慰霊碑の裏側にある、外観は何てことない建物だ。
ロシア語で挨拶したせいか、女性の館員が無性に親切に英露混合で説明してくれる。
あまりの熱量にこちらも真剣に聞いていたので、出る頃にはだいぶ疲れてしまった。

この地を歩くと、「国家とは何か」というものを考えさせられる。
熱心に説明してくれた彼女を思い出すと、「幻想の共同体」と言ってしまえるほど、
単純なものではないように思える。
方向性としては同じなのかもしれないが、幻想というよりもっと熱量のある何かが、
その共同体の核となっている、そんな気がしてくる。


※上記の様に、政情は不安定であるものの、今のところ街自体はおだやかなので
機会があれば来訪をお勧めする。ただし、その際は最新の情報を以て各自で判断されたい。
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