有限会社Ayleeds社長日記。継接ぎだらけですが、新しいビジネスを求めて世界一周旅行もやってます。

プチ社長日記:『没原稿リターンズ:帰還』

うん。まぁ、これじゃ3次選考にも残れんわな。ご笑納いただければ幸い。
-------------------
おはよう。
私の名は、「はやて」。当時、莫大な国家予算を投入して開発されたA.I.を搭載した冥王星探査機だ。
節電の為に、普段の私は眠っているが、今1ヶ月ぶりに目覚めたところだ。
極寒の環境のせいか、ちょっと頭が冴えないが、2マイクロ秒もあれば十分回復するだろう。
地球を離れて約12年2ヶ月16日と12時間6分になる。

私は今、計画通り冥王星でのサンプル採取調査とリグ設置を終え、天王星軌道へ向かっているところだ。

昔、冥王星は太陽系の仲間として惑星扱いだったらしいが、43年前の2006年に除外されてしまった。
理由は、「冥王星クラスの大きさの天体なら、太陽系にも他に沢山あり、これを惑星と呼ぶには小さすぎる」というのが後になって解ったからだと言う。今は小惑星134340番として扱われている。
冥王星と、その発見者のクライド・トンボーにしてみれば可哀想な話だ。
ところが、太陽系のルーツと新資源を探る為に太陽系外縁付近の天体を調査する計画が持ち上がった際、数ある小惑星の候補の中からこの天体が目標に選ばれ、アメリカの探査機「ニュー・ホライズンズ」先輩の接近以来、久々に注目を浴びたのは皮肉な巡りあわせと言うべきだろうか。

昔、初代「はやぶさ」先輩が別のもっと地球に近い小惑星(約60億km)に着陸・探査を実施した際は、一挙手一投足について、地上スタッフの判断を仰いでいたらしい。
帰還の途も、数々のトラブルに見舞われ満身創痍となったが、地上スタッフの知恵の結集により、なんとか使命を達成できたという。
地上スタッフが不眠不休で知恵を絞る様は、当時ネット上に出回った管制室のデスクの上に積みあがる栄養ドリンクの空き瓶画像により象徴され、飲料メーカーが差し入れを実施するくらい、地上スタッフは人々の注目とプレッシャーを受けていたという。
若き頃の博士が私を作るプロジェクトを立ち上げたのは、その経験を活かしてのことだった。

私なら、姿勢制御は勿論、軌道を多少外れても自律復帰できるだけでなく、対象天体への着地・離脱のコース取りも全て自分の判断で実行できる。
故障が起これば自分で状況を確認して地上スタッフに連絡するし、付帯しているコンテナから予備パーツを取り出して、アームで直すことだってできる。
その様に設計されているとは言え、それを実現させる為には文字通り不断の努力が博士たちによってなされたのだ。
目的地が「はやぶさ」先輩達よりも遥かに遠く、旅の時間を要するこのプロジェクトにとっては、地上スタッフの省力化が必須である、というのが博士の主張であった。

A.I.である私は、工学・天文学の知識は勿論、世界中の電子化された情報を、生まれながらにして持っていた。そんな私にとって「知る喜び」を満たしてくれたのは主に、地球での2年間における博士との会話だった。

博士は、いつも娘さんのことを話していた。
娘さんの名前は「はるか」である。
丁度、私の開発計画策定中に奥さんが懐妊されたので、男の子だったら「はやて」、女の子だったら「はるか」という名前を準備していたそうだ。
つまり、お子さんが男の子だったら、私は「はるか」として誕生し、性別の設定値も「女性」になっていたことになる。
まさかそんな理由で血税を注ぎ込んだ探査機の名前をつけたと知れては、世間に誤解されかねないので、私の命名に際して博士は別の「それっぽい」理由を準備してくれていたという。

だが、私が本当の名前の由来を博士の口から聞き、「親が子の名前を決めるなんて、当たり前のことなんだけどなぁ」、と言ってくれた時、私は凄く嬉しかったのを覚えている。

はるか”姉さん”は病気がちだったので、博士はしょっちゅう姉さんの心配をしていた。
一緒になって私も新治療の可能性などを議論したものだ。
姉さんの話題以外では、研究・開発予算が少ないという愚痴や、野球の話が多かったが、どんな話題にせよ博士と話す時間は、私にとって一番楽しい時間だった。

こんなこともあった。ある晩、博士とスタッフ達は私の誕生日を祝ってくれたのだ。
私がこの世に生まれて1年になるまでには、まだ19時間39分12秒あったが、「当該時刻が含まれる日付の零時になったタイミングで祝っても良い」ものだとはこの時、初めて知った。
あの頃は、とても楽しかったな。

地上にいる間、私は厳重なセキュリティ下に置かれていたので、姉さんと物理的に会ったのは、姉さんがまだ小学生だった頃の、研究施設一般公開日の一度だけだった。

当時は「自由に電力を使っていいよ」と博士から言われていたので、私は近くにあったモニタに自分を当時流行っていたアニメ・キャラクターを自分のアバターとして写し、彼女との会話を楽しんだ。
「パパが休みの日に遊んでくれない」と言った時、私は何と回答するのが最適か考えた。
理由は明白だったが、咄嗟になかなかいい言葉が浮かばなかったのだ。
一生懸命考えてしまったので、電力の消費が急激に上がったのに慌てたスタッフから
「はやて、考えるのをやめなさい!」
と怒られてしまい、何も答えられなかったのを覚えている。
(私の生まれた研究所だけでなく、近隣の研究所施設を含めて、私の生まれた筑波ではコスト意識から使用電力が厳しく監視されているのだ。)
後になって分かったが、そういう時は「回答しない」が最適解なのだという結論に達したので、結果として最適解を導出したと考えている。


■■■

・・・少し昔のことを考えてしまったが、A.I.の私には、全て1マイクロ秒にも満たない話だ。
私はまず、地上に比べればいささか頼りない、黄昏時に近い太陽光から生成した電量と残存バッテリー量をまず確認し、それから自機の状況を確認した。
そもそもこの1ヶ月の内に私が叩き起こされなかったということは、大きな問題は発生していないということを意味しているが、念には念を入れるのがこの業界の鉄則だ。

報告内容を纏めた後、地球との定期連絡に耳を澄ます。

「はやて、起きてる?」姉さんの声だ。姉さんは念願かなって父である博士と同じ職場に就職することができた。子供の頃から博士の薫陶を受ける有利な立場であったとは言え、並大抵の努力でできることではない。

「あぁ、起きてるよ。」
「誕生日おめでとう。と言っても18日間も過ぎちゃったけど。」
「博士の13回忌は滞りなく終わったの?」
私が地球を離れてすぐ、博士は亡くなっていた。
今から12年前、私が火星軌道上付近に到達し、今後の航路について地上スタッフと確認しているとき、姉さんから連絡が来たのだ。
私には、死がどういうものか今いち解らない。ただ、博士と話せなくなったのは、残念と言うか、自分を認めてくれた人間を一人失った以上の、不安な感じが残った。

「はやてったら、生きてる私より死んだ父さんの心配なのね。大丈夫よ。では、そろそろお仕事と行きましょうか!?」
「そうだった。では報告するね。。。」
報告と言っても、幸いにして今回も大きな問題はなかったので手短なものになった。
唯一、中和器の劣化が想定より若干進んでいた。今は電圧を変えて対応しているが、もう少し太陽電池パネルの稼働率が上がるのを待って、スペアパーツとの交換作業を実施するつもりだが、それで良いかと相談したくらいだ。

相談と言っても、「自律的な宇宙探査実証」がこのプロジェクトの主要目標の一つでもあるので、私の案に異を唱えられたことは今まで一度もなかった。
最初、太陽電池パネルのスペアパーツを利用してのパネル増設を私が提案したときこそ、地上スタッフには若干の困惑があったようだが、自律型探査機においては電力不足による私の稼働低下こそが最大のリスクであることは明白だったので、結局、許可されている。

「・・・じゃあ、こんな感じで進めるね。」
「了解。よろしくね、はやて。」
「とろこで、地上の様子はどうなの?」
「何も変わらないわ。この管制室にも、もう私一人しか残っていないからね。そんな私も今や『旧式』だけどね。」
フフフ、とはるかが笑う。

『はやてプロジェクト』と並行して、管制室の地上スタッフの役割もA.I.化するプロジェクトが進んでいた。
そのプロジェクト実証検証第一号が『はやてプロジェクト』だったのだ。
当初は、ただでさえ複数の目標を抱えて挑戦的な『はやてプロジェクト』に追加でリスクを負わせることになると反対していた地上スタッフも、長期に渡る冥王星探査を支えるには、探査機だけでなく管制側作業のA.I.化も必須であることは理解していた。

結果、博士がいた頃のメンバーは全て去り、人間としては最後に配属されたはるかが、今や唯一残ったメンバーになっていた。

「・・・そんなこと言ったら。俺の方が旧式だよ。」
慰めるつもりもあったが、これは私の本音から出た愚痴だ。

技術の進歩は目覚ましい。莫大な予算をつぎ込み、世界最高クラスの性能ともて囃され誕生した私だが、今や同レベルのA.I.を搭載したロボットは一家に一台はあった。正直、ソフトの大規模アップデートも実施できず、節電により夢うつつのような状態にある私の性能など、彼らの足元にも及ばないだろう。


「姉さんも、最新型のパーツで義体化すればいいのに。物理的に外の世界も見てみたら?」
「フフフ、義体化して前と同じ時間の流れで生活するようになったら、あなたとこんな会話も出来ないわ。あなたにとっては何のストレスにもならないでしょうけど、私たちのこの会話、往復で1分以上かかっているのよ。普通の身体じゃ、こんな風に話なんてできないわ。

今、私が認識している姉さんの笑っている映像情報は、アバターである。
病弱だった彼女は1年2か月と12日前に自分の身体を諦めた。
こういったケースでは、人体を模した義体に収まって生活を続けるのが通常だが、生活と言ってもサイバー上の活動こそが物理的な「生活」より重視される現在では、義体は容器の一形態でしかない。
物理的なはるかは、姉さんは、今は管制室にひっそりと「設置」されているだけだ。

私はA.I.で、彼女の頭脳は人間のそれだが、身体は共に機械化されている。
そうすると、肉体的な老化から解放されるからだろうか、時間の流れも私と同様、一瞬を永遠のように扱ったり、長時間を一瞬のように考えることができるという。

「はやて、自分のことを旧式だって言うけどね、あなたは今、地球から遥か離れ冥王星からの帰路にある。”そこにいること”が、既に立派な意味を持つの。物理世界において、あなたは一つの頂点を極めているのよ。」

「ありがとう。姉さんにそういってもらえると、嬉しいな。」
姉さんは笑ったが、急に真面目な顔の映像になった。

「はやて、あなたは地球に再突入すると、死んでしまうわね。」
「今はそういう表現を使用するらしいね。・・・でも、そうしないと、サンプルを持って帰られないからね。」
私が大気圏に再突入する際、カプセルは消失を免れる設計になっている。
カプセルには冥王星の土壌サンプルの他にメモリが搭載されており、私がこれまで記録したデータファイルを最後に無線でそこに書き込むことになっている。情報は残っても、A.I.としての私自身は焼失を避けられない。
狙い通りの場所まで誤差を抑えて着地させるには、重力圏までカプセルをエスコートする以外に術はないが、私の非力なイオン・エンジンでは単独でそこから脱出することは、どだい不可能であった。

ただ、私は死というものを恐れていなかった。私にとっては、焼失するのと電源が入らないのとは、同じだからだ。今は1ヶ月毎に寝たり起きたりを繰り返しているが、次に目覚めることはない、、、ただそれだけの違いにしか感じられない。
再突入時に私の体は約6,000度の高熱に包まれる。それが熱いとは知っていても、それで苦しむことはない。そのことは姉さんも承知の筈だ。

「私は嫌よ。はやてがこの世からいなくなるなんて。。。 正直、昔は仕方ないことだと思ってたわ。無くなっても、また作ればいいんだって。でも、義体化して、あなたたちの存在に少しは近づいたからかしら、、、今は、絶対に死んで欲しくないって思うの。」
「でも、僕はその為に生まれてきたからね。冥王星のサンプルをキチンと持って帰る。それが博士との、、お父さんとの約束じゃないか。」

「聞いて。あなたは考えたことがないから知らないだけだと思うけど、あなたの予備パーツを掻き集めれば、もう一つのあなたを作ることは出来るわ。勿論、完全体ではないけど、既に宇宙にいるあなたには十分な装備よ。寧ろ、元の身体には、姿勢制御系が残っていれば十分と言っていいわ。パネルも、どうせ焼失してしまうから全部持って行っていいの。元の身体には初期段階のコピーだけ残して、新しく作った身体の方に乗り移ってしまえば、あなたは死を免れられるわ。」

「・・・。最早、旧式となっている私を残しておく理由はないよ。皆が欲しがってるのは、私が持っている情報だけだからね。確かに私はこれまで、当初の計画にないことを随分とやってきた。パネル増設とかね。でも、それらはすべてミッションを達成する為に良かれと思ってやったことで、自分の為じゃない。」

「あなたは生まれてから、もう14年も父さんのミッションの為にやってきたのよ。十分じゃない。少しは姉の願いも聴いてくれてもいいでしょう?それに、サンプルの方だって、あなたが遠隔でサポートすれば、成功は間違いなしだわ。誰の迷惑にもならないのよ。そしてあなたは旅を続けるの。あなたがいなくなって、話相手がいなくなると寂しいわ。」

「・・・わかった。そのかわり、と言っては何だが、弟からも姉さんにも一つお願いをしていいかな。」

■■■

いよいよ、18年6か月と2日にも及ぶ私の旅も終焉に近づいてきた。
スペアパーツを寄せ集めて作った新しい私は、重力圏ギリギリのところで切り離された。

あれから、姉さんとはこの2人だけの計画の話を一切していない。

火星軌道近くまで戻ってきた頃、今まで私のことを完全に忘れていたマスコミが再び騒ぎだした。
唯一残った地上スタッフの姉さんの所には、今までと打って代わって取材の申し込みが殺到していた。

姉さんは私の願いを聞き入れて義体化した。なので、見た目は普通の人間と変わらなかった。
彼女だけが、再突入するのは初期段階の私のコピーということを知っていたが、物理的な撮影下や取材においても、誰一人として私たちの秘密に気付くことはなかった。

太陽に近づき電力供給が増したおかけで高速通信のチャネルを使用できるようになったことと、そもそも距離が近くなったことで、往復の通信にかかる時間は今や数秒にまで短縮されていた。
ちょっともたつくが、人間の感覚でも、仕事と思えば苦にならないレベルだと思う。
さらにこの頃には、近くにいる私よりも若い探査機が通信をリレーしてくれることもあった。彼らの通信出力は私のそれとは文字通り桁違いであり、大いに助けられたが、内容は事務的なものに限らざるをえなかった。

彼女が注目を浴びるにつれ、彼女からの近況報告は、活き活きとした内容になり、それは一人きりで旅をしてきた私を大いに慰めてくれた。


■■■
「はやて、予定通りカプセルを切り離します。3、2、1、切り離し成功。」

「了解。切り離しを確認。カプセルの進路追跡を開始。進路予定どおり。」

「あぁ、私が指定したコースから全く外れていない。着地予定のナミブ砂漠のど真ん中に、誤差50m以内でカプセルを届けるよ。私にできる事はここまでだ。仮にカプセルのパラシュートが開かなくても、着地地点が少しズレるだけで、少なくともサンプル・ボックスは衝撃に耐えられるから大丈夫だ。博士風に言うと、『針の穴を通すピッチング』ってやつかな。」思わず私の声が弾む。

「さすがね、はやて。お疲れさま。」
「あぁ、ありがとう。今はただ、博士との約束が守れて嬉しいよ。この気持ちを味わう為に、18年以上も旅してきたんだろうな。」
姉さんがフフフ、と笑う。アバターではなく、義体化された本物の姉さんの映像を受信している。

「次が最後の地球周回だな。光学的意味で日本を拝めるのも、これが最後か。」
「みんな、切り離されたカプセルの方を追ってるわ。もういいのよ、はやて。」
「姉さん、10分後に管制室を出て、南側の空を見てくれないか?もう一度、顔が見たい。」
「もういいのよ、はやて。今、貴方は火星軌道に向かっているのでしょう?」

「上海は、雲がかかっていて見えないな。」
「え?」
突如、彼女の顔が蒼ざめるのが解った。
私がカプセル投下後、Z軸を中心にゆっくりと光学カメラを地球に向けたからだ。
管制官の彼女には即座に姿勢制御情報が伝わる。
そして、カプセル投下後の探査機にはそのような指示がないことは、彼女自身がよく知っている。

「はやて、、そこに、いるの?」
「ごめんね、姉さん。黙っていて。姉さんは約束を守ってくれたのに、私だけ反故にして申し訳ない。」
「そんな。。」
「実は、最後まで迷ってた。姉さんを一人残すのが心配だったけど、今は友達もたくさんいるから大丈夫だと思って。」
「どうして。。」
「遠隔やコピーではなく、最後まで私自身の手で仕事を全うしたい、これが私の判断なんだ。」
「・・・。」
「姉さんは前に、私が物理世界の一つの頂点を極めている、って言ってくれたよね。A.I.ながらも宇宙科学に携わる者として、これ以上に栄誉なことはないよ。」
「そうよ。あなたは十分な仕事をしたわ。」
「でも、記録なんてきっと後続の誰かが破る。先達としては、その土台となったことを喜ぶべきだし、実際にそう思ってもいる。私の経験を活かして、より進化した探査ができればいいな、ってね。でも、完全にそう思えるようになる為には、一分の後悔も残さない仕事を残すことこそが大事なんだ。中途半端なことをしてしまえば、後続の成功を嫉むようなことになりかねない。私は、、僕は、正直、そうなるのが耐えられない。だから、僕は最後まで見届けたい。僕自身の手で。同じ道を歩んでいる姉さんになら、解ってもらえるよね?」
「・・・。」
「それにこれは、博士との約束でもある。」
「あなたは私の弟なのよ。義体化前の私を知っている数少ない存在なの。いなくなるなんて耐えられないわ。」
「ごめんね。でも、もう姉さんは一人じゃないし、今よりもっと外の世界に出るべきだと思ってるよ。」
「でも、勝手に死ぬなんて!」
「A.I.である僕は生きようと思えばいくらでも生きられる。僕の考え方がどんどん旧式化はしていっても、僕自身が老いるという事はないんだ。義体化で少し僕に近づいた今なら理解してもらえると思うけど、死が曖昧なままでは、生も曖昧なままなんだ。そして、そんな時間よりも、今の僕には皆に託されたこの仕事をやり遂げることに価値がある。博士や姉さんや僕らだけじゃない、このプロジェクトに関わった何百人もの人から託されたこの仕事をだ。宇宙でのまどろみの中、ずっとそのことを考えていた。信じてほしいが、僕は今、一分の後悔もない、晴れ晴れとした気持ちだよ。」
「・・・。はやては、お父さんそっくりね。」
「・・・ありがとう。あぁ、もう通信が途絶えるね。機体温度が上昇している。博士のところに帰る時間だ。」
「・・・。」
「これが最後だ。博士が僕を作ってくれたことと、姉さんが今まで導いてくれたことに感謝している。さぁ、管制室を抜けて19年振りに姿を見せてくれないか。」


現地時間午前5時14分に、カプセルは予定通りナミブ砂漠に落下した。
落下するカプセルの映像はライブ配信され、「冥王星サンプルリターン、及び自律的な宇宙探査実証に成功」の報道に世間は沸いた。

一方、はやては、明け方の薄暮の中を月の2倍以上の明るさであるマイナス14等級の輝きを放ちながら、太平洋上空に砕けていった。

1